フカセ釣りのエキスパートである石井謙さんは、チヌ釣りのおもしろさを実感してもらうため、自身が主催する釣りクラブのメンバーを釣り場へと誘った。乗っ込みシーズンを迎えるとチヌは釣れ盛るが、今回は乗っ込みの走りのさらにその前という難しい時期。そんななか、チヌ釣り初心者の難波宝さんは見事に本命のチヌを釣り上げた!
フカセ釣りはマキエが肝心
使用したオキアミと配合エサ。『生さなぎ黒鯛』は遠投性と集魚性に特化している。生さなぎ・生さなぎエキス・乾燥さなぎを配合し、さなぎ特有の集魚力と視覚でチヌを寄せ、さらにチヌが好んで食する視覚効果の高い黄色い麦とコーンが追い打ちをかける。
『スーパーブレンド制覇チヌ』は超比重と強いまとまりで深ダナにいるチヌを狙える。チヌが好む定番の荒割サナギ、コーン、押し麦、皮付き麦、カキガラなどを大量に配合している。
マキエの役割は、魚をおびき寄せて食い気をそそらせるところにある。チヌを狙う場合はオキアミなどの冷凍エサに配合エサを加えてマキエを作る。オキアミやアミエビは高い集魚力を持つものの、単体では投げられる距離が短くて軽い。
また、深い場所に沈めたいときは底に届くまで時間がかかってしまう。それを補うのが配合エサの役割のひとつであり、オキアミの持つ効果を最大限に引き出してくれる。
オキアミと異なる比重を持つ配合エサを混ぜることにより、遠投性が高まって沈下速度を調整することができ、匂いと濁りを拡散するなどプラスアルファの要素も得ることができる。これにより距離とタナを的確に狙えるようになり、釣果がぐっとアップする。
1. 岡山県倉敷市 大室港
小さな港で釣り場はさほど広くないが、波止の波返しが低くて幅も広い。そのため初心者も安心して竿が出せる。
チヌの魚影が濃いポイントは、敷石が入っている旧波止周辺の沖向き。足元には敷石が入っており、干潮時には干出する。フカセ釣り、ダンゴ釣りともに狙える。昔からの主流はウキを付けないブッコミスタイルだ。サイズは30cm 前後が多いものの、40cm オーバーもよく混じる。
南側へと突き出ている波止周辺でもチヌが狙える。釣りやすいのは潮が緩い内向き。外向きを狙うなら波止の付け根からコーナーの足元付近がいいだろう。
波止のコーナーから先端は潮通しがよく、夏から秋にサビキ釣りでママカリ、ウキ釣りでサヨリの数釣りを楽しむことができる。波止コーナー手前の北向きでキスの実績があり、ちょい投げで狙える。構内の短い波止ではシーズンによってメバルやベイカ、ハネも有望。
波止の付け根から高室へと続く砂浜一帯は、夏に海水浴が楽しめるレジャースポット。ファミリーやカップルにおすすめだ。
※1 まずはマキエを撒いてポイント作り
※2 2人で並んで竿を出し、本命からのアタリを待った
※3 最初に釣れたのはメバル。魚の反応があったのでひと安心
※4 続いて釣れたのはフグ。ついばむような小さいアタリが多いなか、アワせてみたらこの魚
2.岡山県倉敷市 県漁連裏
波止の南向きは櫃石島との水道になっているので潮通しがよく、1年を通してさまざまな魚が釣れる。そのため、波止には常に釣り人が入っている。
チヌ狙いの釣り方とポイントは次のページで解説する。チヌ以外では、秋のアオリイカ、冬から春のメバルシーズンには竿を出すのが難しいほどの人で賑わうことも。
波止のコーナーと先端付近が好ポイント。どちらも常夜灯があるため、夜間でもライトが必要ないほど明るい。波止のコーナー周辺では秋にタチウオが接岸する。年回りによってムラはあるものの、短時間で2ケタ釣れることもある。夏には沖目でママカリが入れ食いになる。投げ釣りでマダイやニベ、エギングでアオリイカやコウイカもヒットする。
波止先端では夜にメバルの実績が高い。15cmまでの数釣りが楽しめ、時期によっては20cmオーバーも混じる。ルアーやサグリ釣りで狙うとよい。ハネの魚影も濃くスズキサイズも有望。波止際はコブダイやカサゴがよくヒットする。
場所を変えて仕切り直し
※1 ここは勝手知ったる石井さんのホームグラウンド。海中に潜って地形や魚の様子を確認したこともあるという。時期、海水温、当日の潮などをもとに、狙い方を解説する
※2 まずは石井さんが仕掛けを投入する。20mほど沖へキャストして右へと流れる潮に乗せて、波止コーナーの手前まで探っていくとのこと
※3 モタレ潮ができる場所に狙いを定めて、20~30m沖に仕掛けを投入した
※4 風が強かったので、道糸を海面につけてなじませた
※5 ウキが少しシモったときには、ほんの少しだけ竿を持ち上げて様子を見る。藻や根に掛かっている可能性もあるが、魚がエサをくわえているなら、誘ってやればエサを食い込む場合もある
※6 竿を持ち上げて道糸をさばく方法をレクチャー
※7 リズムよくマキエを撒く郁くん
この釣り場でチヌを釣るにあたって有望なポイントは、イラストにあるABCの3カ所です。潮は東にある沖一文字方向からやってきて、Bから跳ねていきます。本流の潮の流れが弱いときほど、沖へと跳ねる潮がウの方向に動くので釣りやすいです。ポイントAから竿を出すなら、沖にできるモタレ潮付近とポイントBの沖にあるシモリ周りを狙います。ポイントBから釣るなら、本流イとウの影響でできる潮壁やシモリを狙います。ポイントCでは、ポイントBへの引かれ潮を狙うといいでしょう。
魚影が濃い釣り場で春夏秋冬いつでもチヌを狙えますが、下げ潮のときはイラストにある本流がイの角度になって釣りにくくなります。ただし、下げ始めと下げ終わりを狙うか、流速が1ノット程度の潮まわりなら比較的釣りやすいでしょう。そのときは、浮力の高いウキかマイナスウキなどを使う特殊な釣り方になります。
(解説・石井謙)
初春のさわやかな季節を迎えると、「ようやく冬が終わった♡」とウキウキ気分になります。わたしのところにも、つい先日春がやってきました。
「魚釣りが好きなんて、まるで女子じゃないみたい」とみんなは笑うけど、へんてこな問題に向かい合ったときに感じるようなもどかしさや、細くしなやかな糸を通して伝わってくる魚の感触、そして緊張感のあるかけひきは、きっと説明したところで分かってはもらえないでしょう。
そろそろ桜が咲きそうな3月下旬、釣りクラブの師匠である石井謙さんに誘われて、今春から高校生になる石井郁(かおる)くんと一緒に「大室港」へ行ってきました。もちろん釣り場選びは謙さんにお任せです。午前中は満ち潮なので比較的浅めのポイントにしたとのことです。
潮は左へ右へと落ち着きませんが、それほど釣りにくくはありません。2時間ほどしたところで大きなフグが釣れました……。謙さんが言うには、チヌらしいサシエの盗り方もしているとのこと。「でも、時期的に少し早かったかな……」ということで、寒チヌ釣りで実績のある県漁連裏へと移動しました。
ここは水深が10m以上あり、大きなマダイやスズキも釣れるというので、期待に胸がふくらみます。と……その前に、移動中に買ったお昼ごはんを食べて、まずは腹ごしらえです。そして謙さんから釣り方を教えてもらいました。
サシエはヒロキュー『生イキくん ツインパックレギュラー』Lと2Lを使用した。南極トロール船で捕獲したオキアミの中で最高の物を厳選して加工している。完全密封型で最高の鮮度を保つトップシール方式を採用。冷凍庫でも凍らない不凍タイプの釣りエサ。使い勝手のよいツインパックになっており、バッカンに取り付けられるフック付き
潮の動きに合わせて、波止の中ほどからコーナー手前で竿を出して仕掛けを流していきました。途中で「これは!」と思わせるようなウキの動き方もありましたが、なかなかハリに魚が掛かりません……。どうやら難しい日に当たったようです。それでも、「なんとか釣りたい!」と思いを込めて仕掛けを投入します。
15mほど沖に見えていたウキがゆっくり沈んでいきました。「これはもしかして……」。魚でしょうか、それとも根掛かり? 少し竿を立ててみると、なにかが掛かっています。「あれ?」でもちょっと軽いかな。実は何も掛かっていないのかな……。
そのとき「ピクピク」と竿先が動き、「これは釣れとるよ」と謙さん。でもチヌではないようです。前に一度釣れたチヌの引きはこんなものではなかったんです。手応えはあるけど、ヒラヒラと木の葉のように舞っているような……。郁くんが玉網を持って駆けつけてくれるけど、少し恥ずかしい。「そんな大きな魚じゃないですよ」と、思わず苦笑いになります。海面に浮いてきたのはヒラメちゃんでした。
とりあえず魚が釣れたのでよしとします。「この釣り場でヒラメを釣るなんて、めったにないよ」と、謙さんも褒めてくれているようです。ん~、でも、やっぱりチヌが釣りたい!
17時30分頃、潮の流れが少し落ち着いてきた数投目、ウキが視界から消えて、手元に重量感のある引きが伝わってきました。この重たさは間違いありません。さっき釣れたヒラメちゃんとはまったく違う引きです。謙さんがすかさずそばにきてやり取りのアドバイスをしてくれます。隣にいた郁くんは握っていた竿を玉網に持ち替えて、頼もしい騎士のように様子を見守ってくれます。
※釣れたのはタマガンゾウビラメ。表側にある丸い斑紋が特徴的。デベラ、デビラとも呼ばれる。上品な白身ながらヒラメと比べると脂ののりが劣る。底引き網で獲られて干物の原料となることが多い
チヌが強く引っぱるときは、強引に寄せてはいけません。走るときは走るままに任せて、引かなくなったらリールを巻いて寄せてきます。こうやって綱引きのようなチヌとのやり取りの末に、やっと足元にその姿が見えました。カッコイイ銀ピカのチヌです。すかさず郁くんが玉網を差し出して取り込んでくれました。「やったー!!」。人生2匹目のチヌです。
この瞬間に緊張感が一気にほぐれました。太陽が西へと傾いてウキが見えづらくなっていたけれど、あきらめなくてよかった。謙さんや、郁くん、レジャーフィッシングの記者さんや、主人の協力があって、やっと釣れた1匹です。
今、振りかえってみると、私の環境は「人の縁」によって支えられているんだなと実感。今では結婚して母となり、この数年は駆け足で来たことも、心に余裕ができて初めて大きな目で考えられるようになりました。チヌが釣れてホントによかったです。ありがとうございました!!
感謝の気持ちでいっぱいです。
(文/難波 宝)
タックル考察
竿
今回の釣り場は潮の流れが速くて水深も深いため、長さ5.3mで1号の軟らかめの磯竿を使いました。竿の硬さはエリアや釣れる魚のサイズと種類に応じて選びます。
リール
潮流を利用して釣ることが多いなら、1.5~2号を150mほど巻いた小~中型のスピニングリールを用意します。仕掛けを沖へ流す場合はハイギアのほうが回収の際は楽です。
ウキ
サシエを投げたり送ったりする役目、そしてアタリを明確にする役目があります。今回は遠投で深場を狙うため、大きい(重い)1号を選択しました。
道糸
仕掛けと釣り人とをつないで、魚を手繰り寄せるためのアイテムです。大きく分けるとフロートとサスペンドの2種類があります。前者は流す釣りや春のガラ藻が多い場所向き、後者はウキごと沈めて狙う、といったように使い分けます。
ハリス
根ズレを防ぐために耐摩耗性を高めています。ナイロン糸に比べると比重が大きいために沈下速度が速くて潮によくなじみます。今回はハリスを3ヒロ(4.5m)とって、深場へアプローチしました。
ガン玉
サシエを狙った場所へ送り込むためにはガン玉(ナマリ)が必要です。状況に応じて使い分けて、サシエが沈むスピードを調整します。仕掛けを狙いのタナへ早く送り届ける「落としナマリ」、仕掛けを潮になじませる「潮ナマリ」、アタリを明確にする「口ナマリ」があります。
ハリ
魚との唯一の接点がハリです。チヌ狙いなら、チヌバリ1~3号を用意しましょう。2号を基準にして、のどの奥まで飲ませたいときには1号、フグやベラなど小型のエサ盗りが多くハリ掛かりするときは3号と使い分けます。潮が速いときにはハリの重量を重くしたり、形状を変えたりしても効果があります。
(解説・石井謙)